
もっとお酒を飲みたいという妹の希望で、ホテルのカクテルラウンジへと三人で移動した。明日は研修会があるのに、こんなに飲んでもいいのかと心配になるような勢いで妹はグラスを空にした、彼も酒が飲めないわけではないので、妹に付き合って杯を重ねる。松下はザルのような二人を横目に、眼下の夜景を眺めていた。南に面した部分はすべてガラス張りになっていて、店のどの席に座ってもしむことができる。
「今日一日、若い男の子を独り占めして気分がよかったわ」
酔った弾みか、そういうことを臆面もなく言う妹が恥ずかしかった。妹が化粧直しに行った隙に、
『無理して付き合うことはないですよ』と耳打ちする。彼は笑顔で『大丈夫ですよ』と囁くような声で返事をした。
午後十時とずいぶん早く時間に酔っ払いができあがり、松下は足許のおぼつかない妹に肩を貸して帰途についた。タクシーの中で横になったのがよかったのか、降りる頃にはなんとか一人で歩けるようになっていた。シャワーを浴びた妹は、化粧ッ気のない顔でバスルームから出てくると『明日、七時に起こして』と松下に言い残し、彼のベッドに倒れ込んだ。
妹の電池が切れると、家の中にはいつもの静寂が戻ってきた。松下は先にシャワーを浴び、自室で彼が来るのを待った。自分と入れ違いに彼がバスルームに入ってから、十五分ほど経った頃だろうか、ドアをノックする音が聞こえた。風呂上がりだということに加えても、彼の頬は不自然に赤く上気していた。
「ずいぶんと飲んでいたでしょう、大丈夫ですか」
彼はゆるりと、いつもより心持ち緩慢な仕種で首を傾げた。
「平気ですよ。酒には強いから」
自分の頬に、彼は手をあてた。
「彼は少し赤いかもしれないけど」
ドアを入ってすぐの場所にぼんやりと立ったまま、いつまで経っ
詩琳ても彼は松下のそばに近づいてこなかった。それどころか『俺、ソファーで寝ましょうか』と言い出す始末だった。
「僕のそばが嫌なんですか」
彼は驚いた顔をして『違いますよ』苦笑いした。
「俺、酒臭いから。先生あまり飲まないし、そういうのが気になるんじゃないかと…」
彼は気をつかってくれたのだろう。けれど今の松下にそんな思いやりは不要だった。
「そばに来てください」
切羽詰まった声に、彼は慌てて近づいてきた。 目の前にある細い腰を引き寄せ、腹に顔を埋める。
「…わざとですか」
彼は『なんの話ですか?』と問い返した。
「僕が女性と食事に行った時、シャツのボタンをはずしたのはわざとですか」
耳まで赤い色に染め、彼は気まずいというよりも泣いてしまいそうな顔をした。
「キスの跡が相手に見えるように、わざとはず
高壓通渠したんですか」
「…違います」